洗面台の排水が以前に比べて遅くなったと感じる時、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが熱湯を注ぐという方法です。キッチンでの油汚れ落としのイメージから、熱いお湯であれば何でも溶かしてくれると期待してしまうのは無理もありません。しかし、水道修理の現場に長く携わってきた経験から申し上げますと、この判断が数十万円規模の大きな修繕工事を招くきっかけになることが少なくないのです。まず理解していただきたいのは、洗面台の排水パイプの多くが塩化ビニルという素材で作られているという点です。この素材は耐熱温度がそれほど高くなく、六十度を超えると変形や軟化が始まります。百度近い沸騰したてのお湯を注ぐと、パイプが飴のように曲がってしまったり、継ぎ目の接着剤が剥がれてしまったりすることがあります。そうなれば、排水管からの水漏れは避けられません。洗面所のつまりの主な原因は、髪の毛に石鹸カスや皮脂、さらには整髪料や歯磨き粉が混ざり合って固まったものです。これらは確かに熱に弱い性質を持っていますが、実は四十度から五十度程度のぬるま湯で十分に柔らかくなります。熱湯で一気に溶かそうとするのではなく、適切な温度のぬるま湯をたっぷりと使い、時間をかけて汚れをふやかしていくのが、配管を傷めずに問題を解決する唯一の方法です。もし自分でお湯を使って対処する場合は、洗面器一杯分くらいのぬるま湯を用意し、それを数回に分けて流すようにしてください。その際、排水口にラバーカップを当てて密着させ、ゆっくりと引き上げる動作を繰り返すと、柔らかくなった汚れが水圧で動きやすくなります。一回の作業で完全に開通しなくても、焦って温度を上げるのは絶対に禁物です。洗面所は毎日家族が顔を洗い、歯を磨く大切な場所です。その機能を守るためには、設備の限界を知り、無理な負荷をかけないことが何よりのメンテナンスとなります。プロを呼ぶ前に試せることはいくつかありますが、常に「温度は五十度まで」というルールを忘れないでください。