住宅のメンテナンスにおいて、最も見落とされがちで、かつ深刻な事態を招きやすいのがトイレの床に発生する微細な漏水です。水回りトラブルの現場に長年携わってきた立場から言わせていただくと、床がじわじわと濡れる現象を放置することは、住宅の寿命を縮める行為に他なりません。多くの利用者は、床が水浸しにならなければ緊急事態とは認識しません。しかし、本当に恐ろしいのは、気づかないほどゆっくりと、しかし確実に構造を侵食していくタイプの水漏れなのです。例えば、便器の設置不良やパッキンの劣化によって生じる漏水は、毛細管現象によって床材の深部へと吸い込まれていきます。最近主流の木目調クッションフロアなどは、見た目には変化が現れにくいため、異変に気づいた時には既に床下の合板がスポンジのようにボロボロになっているケースが後を絶ちません。また、温水洗浄便座のユニット内部からの漏水も増えています。内部の電子弁やプラスチック製の配管が劣化し、一滴ずつポタポタと漏れた水が、便器のボディーを伝って床に溜まるのです。これは電気系統の故障や漏電を招くリスクもあり、非常に危険です。漏水の有無を確認する簡単な方法として、寝る前に便器の周囲をトイレットペーパーで囲っておくことをお勧めしています。朝起きた時に紙がふやけていれば、間違いなくどこかから水が供給されています。漏水が確認された場合、安易に市販のパテやコーキング剤で隙間を埋めるのは逆効果です。外側を塞いでも水は内部で行き場を失い、より深い場所へと浸透していくだけだからです。原因を根本から解決するためには、便器の脱着や部品の交換が必要になることが多いため、専門知識を持つプロに診断を仰ぐのが最も安全で経済的な選択となります。早めに対処すれば数千円から数万円の部品交換で済むものが、放置すれば数十万円の床工事に発展してしまいます。トイレの床に不自然な湿り気を感じたら、それは家の悲鳴だと捉えて、すぐに行動を起こしてください。